海底からの生還
史上最大の潜水艦救出作戦
Terrible Hours,The
ピーター・マース / 光文社 / 2001/08/30
★★★★
とりあえず面白く興味深い
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著者は有名なノンフィクション作家だが、海軍の記者がキャリアの出発点らしく、第二次世界大戦直前のアメリカ海軍による潜水艦事故を描いたこのノンフィクションは、著者にとって原点への回帰のようなものなのかもしれない。
1939年5月に、ニューイングランド沖で米海軍の潜水艦スコーラスが沈没し、生き残った乗組員33人が深さ250フィートの海底に閉じ込められた。このときに、自ら発明した「人工肺」とレスキュー・チェンバーを活用して生存者全員を救出したスウェード・モンセンという人物が、本書の主人公である。訳者あとがきによると、現在に至るまで、沖合いで沈没した潜水艦から生存者全員を救出したケースは、この事例以外にないという。そういう「偉大」という形容句がぴったりの物語。あまりにも偉大なので、素直に感動してしまった。最近の潜水艦映画の『U-571』も、架空の話よりもこの事件を映画化すればよかったのにと思った。
このモンセンという人物は近代的なダイビングの始祖であり、現在のスキューバ・ダイビングはこの人の米海軍における研究に多くを負っている。本筋ではないながらも、ダイビング関連の実験の描写にも迫力があって面白い。なんせ、窒素をヘリウムに置き換えることで潜水病の危険性が緩和されるとか、浮上するときに息をとめてはならない、といった事柄を、人体実験を通して「発見」したりするのである。ダイビングを嗜んでいる人には、これがいかに重要な業績かがよくわかるであろう。
型破りな人物だったため、米海軍内では不遇だったらしく、アメリカ本国でも一般人の間ではほとんど認知されていなかったという。またスコーラスの沈没事件も、第二次世界大戦前夜というタイミングのせいか、当時は大きなニュースになったものの、本書が出るまでは忘れられていたらしい。
なお、米海軍のサイトに掲載されている書評。海軍の官僚主義に対する批判が多い本である割には好意的に扱っている。書評子が指摘しているように、本書は「見てきたようなことを書く」スタイルなので信憑性の点で問題があるだけでなく、モンセンに肩入れするあまり、彼にとって有利な方向に事実をねじまげている部分が含まれている可能性がある。この思い入れが本書を面白い読み物にしているのは間違いないのだが、もうちょっと客観的な本も読んでみたいと思ったことだった。
2001/9/8