空へ
エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか
Into Thin Air
ジョン・クラカワー / 文藝春秋 / 97/10/10
★★★★
事故を起こした営業遠征隊に参加していたレポーターによるドキュメンタリー
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1996年5月に、エヴェレストで12人の登山者が遭難死するという事件があったが、著者は、このときに山頂をアタックしていた営業遠征隊に、アウトドア雑誌のレポーターとして参加していた。著者自身も危ない目にあったが生還した。「はじめに」によると、「あのエヴェレスト体験に、わたしの人生は根底から揺さぶられ、あの出来事をあますことなく……書き残しておくことが、わたしにとってはぜひとも必要となった」
この本が優れているのは、事故にいたるまでにどのようなことが起こったのかをしっかりと調査し、プロセスを再構成している点、そしてこれに自分自身の体験を見事に織り込んでいる点である。要するに書くのが上手。著者の態度も誠実である。
営業遠征隊の抱える問題点(お金を受け取ったのだから、どうしてもクライアントを山頂に立たせたいというプレッシャー。頂上付近で起こる混雑。などなど)はとうぜんながら指摘しているけれども、読み終えての印象は、思ったよりもずっとまともじゃないかというものだった。この事故で死者を出した営業遠征隊は2つあったが、どちらの隊のガイドも遭難死した。2人には、いくつかの判断ミスがあったようだけれども、基本的にはきわめて優れたクライマーであるし、ガイドの仕事を責任感を持ってやっているように思えた(ただしこの本の著者は、片方についてはかなり批判的であるようだが)。
いくぶん醒めた言い方になるけれども、この事件は、いままでは専門家が独占していたエヴェレストでの遭難死に、素人が参加するようになったということに過ぎない。誰もが気軽にエヴェレストの山頂にたどりつけるようになるまでの過渡的な現象だ。たぶん、人間がこういう形で死ねたことを羨ましいと思う時代が来るにちがいない。
1998/4/21
この本ではいくぶん批判的に取り上げられているフィッシャー隊のガイド、ブクレーエフが共著者となっている本、『デス・ゾーン』が翻訳出版された。この本でも言及されているIMAX撮影隊による映画『エヴェレスト』も最近になって公開された。
1998/9/16