遺言
桶川ストーカー殺人事件の深層
清水潔 / 新潮社 / 00/10/20
★★★★★
なんとも凄い話
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1999年10月に埼玉県のJR桶川駅前で女子大生が刺殺された事件に関するノンフィクション。被害者とその家族が埼玉県警上尾署に助けを求めていたこと、警察がそのことを隠蔽しようとしたことがわかり大騒動となった。2000年5月にストーカー行為規制法が成立した経緯には、この事件の影響が大きいと思われる。
著者は、この事件の調査で警察よりも先行し、スクープを飛ばした写真週刊誌『FOCUS』の記者。
私はこの事件について詳しいことを知らなかったので、この本はアンドリュー・クラヴァンのミステリ小説のように面白かった(たとえば『真夜中の死線』)。内容を紹介するのはミステリのプロットをばらすようなものなのでやめておくが、この手の小説に欠かせないイベントと登場人物が完璧に揃っているし、事件が進行するテンポも絶妙で、舞台も北海道から沖縄までをカバーする。そのまま映画になりそうなプロットだ。
もちろんこれは現実の話なので喜んでいるわけにはいかないのだが、本書とここで描かれている著者の活動は、日本でもちゃんとしたジャーナリズムが機能していることの証拠であり、事件の経緯はおぞましく哀しいものではあるにせよ、希望も感じさせる内容になっている。アメリカの事件記者ものだと、こういう報道をした人は普通はピュリツァー賞を受賞してハッピー・エンディングを迎えるのだが。
いくつかの要点。
『FRIDAY』の記者なので、痛烈な記者クラブ批判を行っている。特に今回のケースでは、記者クラブの弊害がもろに現れた形になっている。
被害者は友人たちに対し、直接手を下しはしなかったが殺人の指示をしたと思われるストーカーが、次のような言葉を発したと語っている。「俺は警察の上の方も、政治家もたくさん知っている。この小松に出来ないことはないんだ」。著者は、この事件が司法のプロセスに入って一段落したいまも、事件の発生前と発生後の埼玉県警上尾署の活動の鈍さの背後に、ストーカーが示唆していた何らかの圧力があったのではないかと疑っており、次のような挑戦的な文章を記している(276ページ)。
この一点だけが、私の心の中で未消化の部分だ。いや未だに背負い続けている「何か」か。
今、事件の陰でやれやれと胸を撫で下ろしているそいつ。どんなに時間がかかっても、いつか必ず、そいつを表に引っ張りだす。心あたりがあるなら覚えていて欲しい。
普通に考えれば、これは警察という官僚的な組織があまりにもバカだったために、その背後に陰謀が見えてしまうという典型的な陰謀史観だろう。しかし万が一ということもある。ぜひ食らいついて表に引っ張りだしてもらいたいものだ。
2000/11/18